§18.減磁曲線の温度依存性

3)不可逆熱減磁率の計算

各温度 Tにおける磁気特性は温度の関数で表すことができ、残留磁束密度については

BrT=Br201+Cbr100T-20 式(18-4)

と表すことができ、保磁力Hcjについては

HcjT=Hcj201+Chcj100T-20 式(18-5)

と表すことができる。
次に、Fig.18-1で示された20℃における減磁曲線は、HとBの関数として、近似的に傾きがμr で、点0 , Br20 を通る直線で表すことができると考えられる。この直線を表す式は

B=Br20 +  μr H  式(18-6)

と表すことができる。
Fig.18-1において、磁石のパーミアンスがPの時の20℃における動作点は d20で示されている。d20は、パーミアンス線を表す直線の式

B= -P H 式(18-7)

と 式(18-6) との交点であるので、この2つの式から交点の座標を求めると

(-Br20P+μr  ,  P Br20P+μr ) 式(18-8)

となる。
次に100℃ における動作点 d100を考える。例えば、Fig.18-1に示された代表的なネオジム磁石においては、温度上昇による保磁力 Hcj の低下によりB-Hカーブに屈曲点(knee point)が生じ、この屈曲点を越えると急激に B-Hカーブの落ち込みが発生する。動作点がこの屈曲点を越えると Fig.18-1 の d100に示されているよう屈曲点がない場合の d'100 より落ち込むことが分る。この落ち込みは、温度が20℃ に戻っても回復せず、加熱による不可逆減磁と呼ばれる。
この落ち込み量

BdBd=Bd'100-Bd100Bd'100 式(18-9)

を表式化する。先ず100℃ における減磁曲線の直線部は、HとBの関数として、傾きがμr で、点0 , Br100 を通る直線で表すことができる。この直線部を表す式は

B=Br100 +  μr H 式(18-10)

と表すことができる。式(18-8)を求めた時と同様に、これと式(18-7)との交点を求めることができ、

(-Br100P+μr  ,  P Br100P+μr ) 式(18-11)

すなわち

Bd'100=P Br100P+μr  式(18-12)

と表せる。
Fig.18-2に100℃ における減磁曲線を再掲示した。ここでは、単純化の為、4πM-H曲線は屈曲点において直線で折れ曲がり、屈曲点から保磁力 Hcj100 迄は直線で傾きがμmdであると近似する。通常ネオジム磁石の場合この傾き μmd は十分大きく40-50 Gauss/ Oe 程度となる。Hcb1000からの垂線が4πM-H曲線と交わる点をm100 とすると m100 の座標は

Hcb100 ,-Hcb100   式(18-13)

となり傾き μmd は

μmd= -Hcb100/Hcb100-Hcj100 式(18-14)

と表せる。

減磁曲線(拡大)

更に、B-H曲線の屈曲点以降の直線の傾きをμd とするとHcj100からの垂線がB-H曲線と交わる点は HHcj100 から -Hcj100 だけB方向に下した点となるので

μd=-Hcb100+Hcb100-Hcj100Hcb100-Hcj100=μmd +1 式(18-15)

となる事が判る。
これらより、100℃ におけるB-H減磁曲線において、傾きが μd で表された落ち込み部分の直線を表す式は、Hcb100 ,0 を通り傾きが μd の直線になるので

B= μd H-Hcb100 式(18-16)

と表すことができる。
次に100℃ における動作点 d100 の座標を式(18-16)と式(18-7) より求める。

 

(  μd Hcb100P+μd  , -P μd Hcb100P+μd ) 式(18-17)

すなわち

Bd100=-P μd Hcb100P+μd  式(18-18)

となる。式(18-9)で表された減磁率は式(18-12)、式(18-18)より求めることができ

BdBd=Bd'100-Bd100Bd'100

=P Br100P+μr +P μd Hcb100P+μd /P Br100P+μr = Br1001+P/μr + μr Hcb1001+P/μd  / Br1001+P/μr  式(18-19)

また、式(18-14)をHcb100に関して解けば

Hcb100=Hcj100/1+1μmd 式(18-20)

となるので式(18-15)を用いれば、減磁率式(18-19)は Hcj100 とμmdを用いて表すことができる。

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公開日:2014年8月16日       更新日:2023年10月16日      
作成者:児島 伸生
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